
人生100年時代の「見えないコスト」に備える。生活費・健康費・マンション管理費まで資産を守る視点
私たちが日々直面する「生活コスト」は、光熱費や通信費、健康維持の費用からマンションの修繕費用まで多岐にわたります。物価上昇やインフレが進む今、資産を守りながら豊かに暮らすには、「コストとの賢い付き合い方」が重要です。
本コラムでは、生活コストの内訳や、健康・住まいの維持に必要な支出をどう捉えるかを解説。将来に備えた投資判断にもつながる「支出の質」を考えます。
物を大切にするコスト
先日筆者は街の取材で東京都北区の王子神谷駅を訪れました。駅周辺の商店街を歩いていると通り沿いに英国調のとてもおしゃれな重厚感のある店があり、いったい何のお店だろうと興味津々で見てみると、何と「かけはぎ」の専門店でした。最近の若い方には馴染みが薄いかもしれませんが、「かけはぎ」とは服のひっかけキズなどを元の近い状態に修復するとても高い技術を必要とするものです。
読者の皆様もご経験があるかと思いますが、大切なスーツやドレス、着物などが切れた時はとても悲しい瞬間だと思います。しかし愛着があったり高価なものでも高い修繕コストをかける価値が果たしてあるのかないのか悩む所ではないでしょうか。
このようなケースは生活周辺においては時計や車、オートバイ、あらゆる電化製品、究極は昔流行ったワープロ、レコードプレーヤーなど枚挙にいとまがありません。つまり修繕コストはその判断は人それぞれですが、どれ位思い入れがあるかないかが判断材料となります。新しく買った方が安いと言われる場合でも、愛着のあるものや思い出の品などはいつまでもメンテナンスをしながら長く使いたいものです。
筆者の事務所のある中野にもアンティーク時計のお店が多くありますが、高級機械式時計は数年毎にオーバーホールが必要で何万円もかかるそうです。また自動車も13数年を過ぎると自動車税が高くなり、さらに18年過ぎるとさらに上がりますので、物を持ち続けるのにも多くのコストがかかります。
生活のコストも上昇しています
私達が日常、生活するにおいてはいわゆる公共料金と呼ばれるコスト、電気、ガス、水道代などがかかりますが値上がり傾向にあります。東京都では猛暑の電気代対策として水道代を一定期間無料にするとのお知らせもありました。今年のような記録的なまさに危険をも感じる暑さに対して電気代を削減するためにクーラーをつけないとかとなると、特に高齢者の方は命にもかかわるかもしれません。
ではそういったインフラコストはなぜ上がるのでしょうか。
まずは「エネルギー価格の上昇」が挙げられます。世界的な物価上昇や円安によりエネルギーの輸入価格が大きく上昇しています。また発電コストも上昇し、電気代も上がってきています。
次にインフラの老朽化が挙げられます。昭和の時代、高度成長期などに大きく発達して公共インフラの修繕コストが人手不足や資材の高騰により上がっているからです。水道管の陥落事故も大きく報道されていましたが、今後こうした維持管理コストも大きくのしかかってきていると考えられます。
つまり何かのコストが上がる事により、またそれに関連するコストも上昇していくという、いわゆる「連鎖性」につながる訳です。
また最近はスマホなどの情報通信量も大きくなってきており、人によって月に数万円の通信量やまたサブスクなどの料金もかかってきます。スマホの普及率が97%にもなり、まさに新たな生活コストとなってきています。
長生きに必要な健康維持コスト
人生100年時代といってもいわゆる「健康リテラシー」が高いか低いかによって健康状態にも影響が出る可能性があると言われています。若い頃の習慣で暴飲暴食、夜更かし、たばこの吸い過ぎなどで身体が蝕まれてくると、その先にあるのは医療コストの増大です。
健康な時にジムに通ったり、プールで泳いだりしていれば多少コストがかかっても長い目で見れば大幅な医療コストのカットにつながる訳です。つまりここで言うコストは「未病」に対してコストをかけるという発想です。
筆者の知り合いの不動産会社の方々の中には年に数回人間ドックに入りジムに通い身体を鍛えている方も数多くいらっしゃいます。自分の健康にコストをかけるという事は職場の部下の方、仲間の方、またその家族の生活を守るという事にもつながるからです。
また最近では高齢者の介護費用が非常に高まっていますが、各自治体において最近流行しているのが、いわゆる「健康マージャン」です。「賭けない、吸わない、飲まない」をモットーに高齢者を中心に健康マージャン教室に通いそこで「脳トレ+多くの楽しい会話」などのコミュニケーションが生まれます。実際に相模原市の職員の方に聞いた所、マージャン教室に通う高齢者は認知症になる数が少ないという事です。
マンションのコストについて
次はマンションのコストについて考えてみたいと思います。
居住用であれ、投資用であれ、マンションの維持管理費は当然の事ながら毎月かかる訳です。近年では東京都心エリアに超高級マンションが多く建設されていますが、新築のみならず築年数の古いマンションも管理費が上昇しています。
筆者が取材した渋谷区のタワーマンションではマンション内に温泉やプールがついており、管理費がなんと10万円以上するそうです。
ここで考えてみたい事は住宅ローンには終わりがありますが、管理コストには終わりがないという事です。
超高級マンションを除いて一般的なマンションはサラリーマンの方が多く購入されますので、定年退職後の管理コストは極めて重要なファクターとなります。
管理費の上がりやすいマンションと上がりづらいマンション
では筆者の経験上、管理コストが上がりやすいマンション、比較的上がりづらいマンション、それぞれの共通点について述べてみたいと思います。
まず当たり前の話ですが、一般的なファミリーマンションの管理費はその立地が都心であろうと都区部であろうと郊外であろうと基本的には同じ水準となります。なぜかと言うと、あくまでも建物に対するコストだからです。
但しマンションの立地によって所有者の属性(資産内容、年収など)に影響も受けるからです。例えば都心エリアのマンションの管理費はこの5年で3割上がったという報道もあります。管理費や修繕積立金の改訂については条件にもよりますが居住者の一定数の決議が必要というハードルをクリアしないと成し遂げられませんので、ある程度経済的な余裕がある人の割合が多くないと管理費値上げは実現できない訳です。
地方都市の物件の中には管理費や修繕積立金の上昇に反対する居住者が多く、その間にやるべき修繕が大幅に遅れ、もはや修繕不能に陥る物件も実際にあるようです。
管理コストは安ければよいという物ではなく、適正なコストをかけるという意識がとても重要です。
管理コストが上がりやすいマンションのもう一つの例としては一棟当たりの戸数が少ない過ぎるマンションです。
例えばAマンションは総戸数が50戸、Bマンションは15戸とすれば、当然の事ながら規模の小さいマンションほど戸当たりの負担は重くなる訳です。
これはあまり良い言葉ではありませんが、筆者は近い将来、「コスト難民」が多く発生すると予想しています。
そのためには長期に渡って管理コスト、修繕コストが高くなりづらい物件を選択する事が大切です。これは「将来コストが発生しやすい設備」が少ない事がポイントなります。
また修繕積立金は「段階増額積立方式」と言って当初は低めに設定して段階的に値上げをしていく設定の場合も多くなっています。つまり当初の修繕積立金の設定が相場よりも安い場合は将来的に値上げをしないと適正な修繕ができない事になります。こうした将来修繕コストも見込んでおく必要があります。
このように、健康やマンションの資産価値を保つためには、適正なコストが極めて重要であると筆者は考えます。もちろんマンション経営にもコストがかかりますので、コストをかけても惜しくないと思うマンションを選択する事が大切です。