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株主優待実施数が減った理由・増えた理由。優待の新設・廃止で株価はどう動く?

株式投資で得られる株主の利益には、値上がり益・配当金・株主優待があります。

このうち株主優待を導入する企業は約1600社ありますが、2023年までは実施する企業が減少傾向にありました。しかし、2024年からは再び増加に転じています。個人投資家としては、株主優待があるほうがいいですよね。でも、株主優待はどうして減っていたのか、再び増加している理由は何なのでしょうか。

株主優待がもらえる権利を獲得するには「権利付き最終日」に保有すること

株主優待は、企業が自社の株を持っている株主に贈るプレゼントのようなものです。

株主優待のプレゼントの内容は企業によりさまざま。自社の商品やサービスの割引券(無料券)をプレゼントする会社もあれば、株主側が使い方を選べる金券やカタログギフトをプレゼントしてくれる会社もあります。さらには、株主優待でしか手に入らないものを配る会社もあります。そのユニークさ、お得さが個人投資家に人気で、株主優待を目的に投資をしている「優待投資家」がいるほどです。

株主優待をもらうには「権利確定日」という日にその企業の株を保有している必要があります。権利確定日は企業によって異なりますが、3月末、9月末に多い傾向にあります。

ただ、権利確定日に株を買っても優待はもらえません。株を買っても、株主としての権利が与えられるのは購入の2営業日後だからです。つまり、権利確定日の2営業日前には株を買っておく必要があります(この2営業日前のことを権利付き最終日といいます)。

たとえば、31日(月)に権利確定日を迎える企業の株を買う場合、27日(木)に株の買い付けを行い、注文が成立(約定)する必要があります。そして、27日にその株を保有していれば、翌28日(金)(権利落ち日)に株を売却しても、株主優待をもらうことができます。

株主優待を手に入れたいと思ったら、知っておかなければならないルールですし、後述する株価への影響にも大いに関係がありますので、ぜひ覚えておいてください。

株主優待実施銘柄数が減った理由・増えた理由

野村インベスター・リレーションズの集計によると、2025年3月末時点の株主優待実施銘柄数は1580社で過去最多になったとのこと。上場企業に占める株主優待実施銘柄の割合は35.0%ですから、およそ3社に1社が株主優待を実施している状況です。

<株主優待実施銘柄数・割合の推移>

野村インベスター・リレーションズ「株主優待実施レポート」より

株主優待実施銘柄数の推移を見ると、必ずしも一貫して増え続けてきたわけではないことがわかります。2009年・2010年ごろの減少は、2008年に起きたリーマンショックに端を発する世界同時株安、企業業績の悪化によるものです。

2020年以降の株主優待実施銘柄数の減少、そして2024年以降の株主優待実施銘柄数の増加には、次のような理由があったと考えられます。

【株主優待実施銘柄数が減った理由】

1、コロナ禍の影響

    新型コロナウイルスの感染拡大はまだ記憶に新しいところでしょう。株主優待は個人投資家にとってはうれしいプレゼントでも、企業にとってみればコストがかかることでもあります。コロナ禍によって経営状態が悪化したことをうけて、株主優待の実施を取りやめる企業が増えました。また、なかにはコロナ禍で上場廃止になってしまった企業もあります。当然この場合も株主優待は終了します。

    2、公平な利益還元のため

    株主優待は、日本に住む個人投資家にとってはうれしい制度かもしれません。しかし海外の投資家や機関投資家にとっては、そうでもありません。レストランチェーンの株主優待をもらったところで、海外の投資家は使いようがないケースも多いでしょう。

    また、「100株以上の株主にプレゼント」という場合、200株でも300株でももらえるものは同じです。何百万株、あるいは何千万株などと、大量に株を保有している機関投資家でももらえるものは100株の株主と同じとなれば、不公平に感じられるでしょう。

    その点、配当金であれば「1株あたり◯円」と保有する株数に応じて支払われるため公平です。株主優待をやめて配当を充実させるという企業もありました。

    3、東証の株式市場再編

    2022年4月、東証(東京証券取引所)の市場区分が再編されました。それまで「東証一部」「東証二部」「ジャスダック」「マザーズ」と4つあった市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に整理したのです。このとき、上場に必要な条件(上場基準)が見直され、上場に必要な株主数が減りました。

    たとえば、以前の東証一部への上場に必要な株主数は「2200人以上」でした。それが、新市場のプライムでは「800人以上」に減っています。個人投資家をこれまでほど集めなくても、上場が維持できるようになったため、株主優待を行なう必要性が薄れました。

    【株主優待実施銘柄数が増えた理由】

    1、新NISAによって個人投資家が株式投資を始めた

    2024年に制度が改正された新NISAは、従来のNISAよりも使い勝手がよいこと、投資の必要性が認知されたことをうけて、多くの個人投資家が投資を始めるきっかけになりました。こうした個人投資家に株を買ってもらいたい企業が株主優待を導入しています。

    2、政策保有株(持ち合い株)の解消

    政策保有株(持ち合い株)とは、複数の企業がお互いに保有している株のこと。昔は安定経営や関係維持のためによく行われていたのですが、金融庁が「公平な競争を阻害する」としてからは、解消が進んでいます。その売られた株を個人投資家に買ってもらうために、株主優待を導入する企業が増えています。

    3、安定株主を作りたい

    企業は多くの投資家に自社の株を買ってもらいたいと考えていますが、せっかく買ってもらってもすぐに売ってしまうような株主ばかりでは、経営も安定しません。株を長く保有してくれる安定株主を作るために、株主優待が導入されています。

    株主優待で自社の製品などをプレゼントすれば、より自社のファンになってくれるでしょう。近年は、たとえば「株を3年以上保有する株主には商品券を1000円上乗せ」などと、長期保有によって株主優待がグレードアップする制度を設ける企業も増えています。

    株主優待の新設・廃止で株価はどう動く?

    株主優待の新設・変更・廃止は、企業のIRサイトやニュースリリースなどで公表されます。そのため、株主優待の新設・変更・廃止によって、株価が動くことも多くあります。多くは、その日の市場が終わった15時半に公表され、翌営業日の株価が大きく変動するといった具合です(市場が開いているときに発表されることもあります)。いくつか例を見てみましょう。

    なお、以下はあくまで過去の値動きの事例を示したもので、株主優待の発表によって必ずこのように値上がり・値下がりするとは限りません。また、以下で紹介する銘柄への投資を推奨するものでもありません。あくまでも一例として紹介しているに過ぎません。投資の判断は自己責任でお願いいたします。

    ●株主優待の新設は値上がり要因

    株主優待の新設は、個人投資家にはポジティブな要因ですので、株価の値上がり要因になります。

    駐車場経営・コインパーキングを手がける日本システムバンク(5530)は2025年5月30日に株主優待の新設を発表しました。6月末時点の100株以上の株主にQUOカード2000円分、200株以上の株主にQUOカード4000円分がプレゼントされます。

    また、2025年7月1日に1株→2株の株式分割を実施し、以後は100株以上で1000円分、200株以上で2000円分、400株以上で4000円分のQUOカードがプレゼントされるようになります。

    5月30日時点の終値は1755円でしたが、発表翌営業日の6月2日には高値2154円、終値1978円と急騰しています。

    <日本システムバンク(5530)のチャート>

    Yahoo!ファイナンスのチャートより

    株主優待の新設が好感されたことはもちろん、株式分割もポジティブな要因(単価が安くなることで投資家が増えるので、株価の上昇要因になる)のため、以後の株価も堅調に推移しています。

    ●株主優待の廃止は値下がり要因

    株主優待の新設が上昇要因なら、廃止は値下がり要因なのは想像に難くないでしょう。酒類などの嗜好品の販売を行うやまや(9994)は2025年5月15日に株主優待の廃止を発表。それまで、毎年3月末と9月末にプレゼントしていた株主優待商品券3000円分が廃止になりました。

    株主優待の廃止の理由は「公平な利益還元」。「株主の皆様に対する公平な利益還元のあり方について慎重に検討を重ねた結果、配当を通じた利益還元に一本化することを決定し、株主優待制度を廃止することといたしました」とリリースにはあります。

    その言葉どおり、2026年3月期の予想配当を54円から16円増配して70円にしているのですが、株価は大きく下落しました。

    <やまや(9994)のチャート>

    Yahoo!ファイナンスのチャートより

    2025年5月15日の終値は2909円。それが翌日の5月16日には安値2509円、終値2552円まで下落しています。配当増のインパクトより優待廃止のインパクトのほうが大きい様子がうかがえます。

    ●高額の株主優待に要注意

    注目を集める株主優待ですが、あまりに高額な株主優待の新設には注意が必要です。

    不動産業のREVOLUTION(8894)は2024年10月23日に株主優待の導入を発表しました。その内容は、2000株の株主に対して4月末と10月末に「QUOカードPay」を各6万円、計12万円プレゼントするというものでした。かなりの高額ですよね。

    しかし、2025年3月11日になって株主優待の廃止を発表。つまり、一度も株主優待が実施されることなく廃止されてしまったのです。

    同社のチャートは、次のようになっています。

    <REVOLUTION(8894)のチャート>

    Yahoo!ファイナンスのチャートより

    こうなるともはや、株主優待による相場操縦と言われても仕方ない動きでしょう。株主優待をめぐる一連の動向によって、株価は株主優待発表前の水準よりもさらに下がってしまいました。高額の株主優待に釣られて株を買った人は、株主優待の廃止によって大損してしまったことでしょう。

    今後も株主優待を実施する企業は増えていくと考えられます。株主優待は確かに魅力ですが、だからといって飛びついてしまうと痛い目に遭う可能性もはらんでいます。企業の経営状態なども確認し、きちんと株主優待が実施できるのか、確認するようにしましょう。

    頼藤 太希(よりふじ・たいき)
    マネーコンサルタント

    (株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)

    X(旧Twitter)→ @yorifujitaiki

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