【2025年総括】不動産投資のプロが振り返る日本経済と不動産市場|万博・金利・地価は何を変えたのか
2025年も、気がつけば年末を迎えました。大阪・関西万博の開催、物価上昇の加速、政権交代、株価の最高値更新、そして金利の正常化——。振り返ってみると、日本経済と不動産市場にとって転換点となる出来事が数多く重なった1年だったと感じます。
不動産投資家にとって重要なのは、ニュースの羅列ではなく、それらの出来事が「地価」「賃料」「投資判断」にどう影響したのかを整理することです。
本コラムでは、不動産投資家の視点から2025年を振り返りながら、日本経済・金融環境・不動産市場の変化と、これからの投資戦略にどう向き合うべきかを考察していきます。
大阪・関西万博の開催
今年はまず、何と言っても最大級のイベントである大阪・関西万博が4月13日~10月13日の184日間にわたって開催され、2021年の東京五輪に続く世界的なビッグイベントとなりました。大阪の万博は1970年以来ですので55年ぶりとなります。当時は高度経済成長の中にあり日本が大きく変わってきた時期でした。
今回の大阪では大阪メトロの延伸もあり、湾岸エリアの今後の発展にもつながる機会となりました。万博の経済効果は大阪のみならず東京も含め多くのエリアに恩恵がありました。来日できなかった外国人の方々もSNSを通じて日本を知る機会となり、今後年数を経るごとにインバウンドも増えていくと考えられます。ちなみに次回の万博は2030年にサウジアラビアのリヤドで開催されるそうです。
物価上昇が続く
私達の暮らしの面では、物価上昇が顕著になった年となりました。
総務省の発表した消費者物価指数では、生鮮食料を除く総合で2025年10月は前年比3.0%の上昇となりました。食料品など生活必需品も大きく値上がりし、特にお米の値段が大きく上がった事が注目を集めました。さらに外食費も大きく上昇しラーメンも1,000円以上が当たり前の時代となりました。
こうした物価の上昇のため、給与も増加しましたが物価上昇幅の方が高く実質給与はマイナスが続きました。10月は0.7%減で10ヶ月連続のマイナスとなりました。サラリーマンのみならず年金に頼っているシニア層にとっても悩ましい年となりました。
消費者物価指数 生鮮食料品を除く総合 前年同月比
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 対前年比 | 3.2 | 3.0 | 3.2 | 3.5 | 3.7 | 3.3 | 3.1 | 2.7 | 2.9 | 3.0 |
(単位:%)
高市政権が発足
政局においては、2025年10月に初の女性総理となる高市政権が発足しました。
政策的にはまずアベノミクスを継承した積極財政と金融緩和がポイントなります。財政出動という事は国が積極的にお金を使う事です。国民の生活が豊かになるための支出・減税ですが、その先にあるものは需要の増大による新たなインフレ懸念です。また金融緩和ですが、ここは政府の思惑もさる事ながら日銀の独立性という観点からも一筋縄ではいかないとも考えられます。
就任した直後に行われた、2025年1月に就任したトランプ大統領との会見も話題を集めました。少し地味な印象のあった(失礼!)石破総理と比べると実に様々な出来事が起こっていますが、今後の政策にも期待したい所です。
参考:サナエノミクス徹底分析:安心と妥当性を担保する未来戦略
株価は最高値を記録
株式市場を見てみると、トランプ大統領による関税政策の影響もあり日経平均株価は2025年4月7日に一時3万1000円を割り込みました。ワースト3に入る下げ幅で1年半ぶりの水準となり、2024年7月から1万円以上下落しました。NISAなどを始めた方も多い時期で、こうした方々には大きな影響がありました。
しかしその後は株価も回復し、10月27日には取引時間中最高となる5万円を突破しました。バブル崩壊前の1989年の年末には日経平均が38,915円でしたのでそれより1万円以上上昇している事になります。
株価の上昇は景気マインドの上昇につながりつつ、特に株を所有する富裕層にとってみれば「資産効果」により海外旅行や高額商品の購入やマンションなど不動産市場にも好影響を与えました。
金利動向
不動産投資を始め日本経済にも大きな影響を与える金利の動向について見てみましょう。
前年の2024年は日銀の金融緩和政策が続き史上最低水準の金利が続いていました。しかし消費者物価指数の上昇や、大企業などが中心ですが賃金の上昇も広がり、日銀は2025年1月に短期金利を0.5%に引き上げました。さらに2025年12月19日には0.75%への引き上げとなり、金利の正常化に向けての動きが強まっています。
読者の皆様が気になる所はおそらく今後の住宅ローン金利の行方ではないでしょうか。端的に述べると長期金利の上昇で既に固定金利は上昇傾向となっています。多くの方が利用している変動金利は政策金利の影響を受けます。政策金利が上がると一般的には短プラが上昇しその先に金融機関による貸し出し金利が上昇します。しかし現在においては多くの金融機関は競争原理が働き、顧客の属性などにより優遇金利を設定するケースが多くなっています。金利の上昇は始まったばかりですが、緩やかな動きになると考えられます。
不動産市場動向
では不動産市況について、最初に地価・建築費などについて見てみましょう。
2025年の公示地価(1月1日時点)では全国の地価は住宅・商業地、全用途のいずれも4年連続の上昇となりました。東京都では住宅地で5.8%、商業地で10.5%の上昇と商業地を中心に地価が大きく上昇しました。
2025年基準地価(7月1日時点)では全国の住宅・商業地を含む全用途では4年連続で上昇となりました。東京などでは公示地価と同じく商業地を中心に地価が大きく上昇しました。
また建築人件費も上昇しており、国土交通省が発表する「公共工事設計労務単価」を見ると、2025年には24,852円となり13年連続の上昇です。
円安も進み、建築人件費が上昇する中で建築費も上昇し、国土交通省が発表した「建設工事デフレーター(2015年度基準)」によると2025年9月の指数は132.8(鉄筋RC住宅)となりました。
建築費上昇の影響は?マンション価格の上昇と再開発への影響
こうした地価・建築費上昇の影響もあり2025年の不動産市況はファミリーマンション価格が大きく上昇した事が特徴です。
地価・建築費の上昇から都心部のファミリーマンション価格が大きく上昇し、不動産経済研究所の調べによると10月の東京都区部の新築マンション平均価格は1億5,000万円を超えました。
さらに建築費上昇の余波は様々なビッグプロジェクトにも影響を与えています。筆者の事務所のある中野では、大規模な再開発が進んでいますが、その中でも中心となる「中野サンプラザ」の建替え計画が建築費高騰のため白紙となっています。また練馬美術館の建替え工事や五反田TOCビルの建替えの延期、さらに先日発表された名古屋駅前の大規模再開発も一旦白紙となるなど、建築費の上昇は大きな影響を与えています。
しかし再開発の延長などは楽しみが先送りされたという考えもでき、不動産投資家にとってみれば必ずしもマイナス要因とはならないと言えます。
外国人の動向
2025年には訪日外国人が増加し、1~11月の累計で3,900万人を突破しました。このペースで行くと通年で4,000万人の大台突破は確実な状況となっています。こうしたインバウンドの増加により観光地や都心部などの来訪者が増加し、商業地を中心とする地価上昇の要因となりました。
日本で就業する外国人や留学生も増加しています。厚生労働省の発表によると2024年10月時点での外国人労働者数は約230万人で前年比12.4%の増加となりました。特に東京都が最も多く約58万人で全体の25.4%を占めています。また外国人留学生の数は増加傾向にあり、2024年5月1日現在の留学生数は336,708人で前年比57,434人、20.6%の増加となりました。こうした就業者や留学生はワンルームマンションの新たな賃貸需要層となる可能性もあります。
このように外国人の増加による影響が増大した年となりました。
人口動向
人口面を見てみると、2025年は高齢化率が上昇し、2025年9月時点では29.4%が65歳以上となり高齢化率は過去最高となりました。また出生数は最低となり2024年に68万6061人(外国人含むと約72万人)となり、統計開始以来の過去最少を更新し、初めて70万人を割り込みました。合計特殊出生率も1.15(2024年)で過去最低となっています。
人口の減少から労働力も減少し、外国人労働者が増える構図ともなっています。
人口が減少局面に入ると、人口は都心部などに集中する傾向があります。特に東京などは一極集中が続いており、東京を含む首都圏などの人口増加は続く可能性もあります。
まとめ
今回のコラムでは今年を端的に振り返りましたが、読者の皆様もご自身にとってどのような年であったのかという事を記録に残しておく事が大切と考えます。
最後に、今年も1年間ありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。
野中 清志(のなか きよし)
住宅コンサルタント
マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。