1. HOME
  2. プロが教えるお金・投資
  3. 始めた投資はいつやめる? 資産売却のタイミングはどんなときか

始めた投資はいつやめる? 資産売却のタイミングはどんなときか

日本にはなかなか根付いてこなかった投資も、2024年のNISAの制度改正をきっかけに、これまで投資をしてこなかった人も投資をスタートさせています。地道にコツコツ投資をしてきた人は、お金が増える感覚がつかめてきたことでしょう。

ただ実は、投資は始めるときよりもやめるとき、つまり資産を売却するときのほうが難しい問題があります。「投資をやめるなんて、まだ先」という人も多いかもしれませんが、ここで一度考えておきましょう。

今回は、始めた投資はいつやめるのか、資産売却のタイミングはどんなときなのかを紹介します。

資産売却のタイミングは難しい

本稿を読んでいる方はおそらく、2024年からの「新NISA」を利用して投資をしていることでしょう。新NISAになってから投資を始めた方もいれば、2023年以前の「旧NISA」から投資を始めた方もいると思います。つみたて投資枠(旧NISAでは「つみたてNISA」)を利用して、コツコツと投資信託に積み立ててきた方が多いことでしょう。

では、みなさんはその投資を「いつまで」続けるつもりでしょうか。

長く運用を続ければ複利効果を得られ、まとまった資産を築ける可能性は高いです。

しかし、いつ使い始めるのでしょうか。

実際、保有している資産の売却タイミングは難しいものがあります。

保有している資産が順調に値上がりしているならば、「もう少し保有していればもっと値上がりするかもしれない」と思うかもしれません。もちろん、できるだけ高く売れたほうがいいですよね。反対に、保有している資産が値下がりしているならば、「もう少し保有していれば値を戻してくれるだろう」と思うかもしれません。

こうなると、いつまで経っても売却できない状況が続きます。

新NISAのつみたて投資枠の資産のように、長期にわたってコツコツと積み立ててきた資産ならば、なおのこと資産売却に悩んでしまいそうです。

「ここまで長きにわたって頑張ってお金を積み立ててきたのに、取り崩してしまうなんてもったいない」と思うと、なかなか取り崩せなくなってしまうかもしれません。

資産売却のタイミングは意外と難しいことがわかるでしょう。

投資をやめてはいけない「NG」売却タイミング

お金を増やすために投資をするのですから、それまで貯めてきた資産を売却すること自体に問題はありません。ただ、投資をやめてはいけない「NG」売却タイミングはあります。

●使う予定もないのに、多少利益が出たからと売却するのはNG

投資先が値上がりして、利益のある状態(含み益)は嬉しいですよね。ただ、使う予定もないのに、多少利益が出たからといって売却してしまうのはNGです。

新NISAのつみたて投資枠で投資できる投資信託は、投資の王道である「長期・積立・分散」と相性がよい商品が揃っています。長期投資をすることで複利効果を味方につけて資産を増やすことができ、積立投資をすることで平均購入単価を下げることができ、分散投資することでリスクを抑えて増やすことができます。そして、NISAを利用することで利益は非課税で受け取れるのです。

多少利益が出たからと売却してしまったら、長期・積立・分散のメリットが生かせなくなるうえ、複利効果が得られなくなります。複利効果とは、複利効果とは、利息や運用益が次の利息や運用益を生み出していくことです。複利効果では、時間をかければかけるほど、お金が加速度的に増えていきます。できるだけ長く運用を続けることで、さらにお金が増やせる可能性があるのです。

●暴落で慌てて売却はNG

市場はときに大きく暴落します。暴落があったときに、無傷でいられる投資先はほとんどありません。新NISAのつみたて投資枠で投資している投資信託も例外ではなく、大きく値下がりするでしょう。こうした暴落があったときに、慌てて売却するのはNGです。なぜなら、なぜなら、暴落に慌てて売却してしまうと、その時点で利益(または損失)が確定し、その後の資産回復・上昇の恩恵を一切受けられなくなるからです。

2025年4月、米トランプ大統領が世界の貿易相手国に対して関税を導入すると発表したことを受けて、市場が大きく下落しました。米国のS&P500は10日間で10%以上、日経平均株価も同じく10日間で16%以上下落しました。しかし、その後もずっと値下がりしたかというとそんなことはなく、本稿執筆時点(2025年6月19日)にはどちらも暴落前の水準を回復しています。

リーマンショックやコロナショックといった、過去の暴落でも同様です。「必ず元の水準に戻る」という保証はできませんが、過去を振り返っても下がり続けた相場はなく、数ヶ月から長くても数年程度で元の水準を回復しています。ですから、暴落で慌てて売らないようにしましょう。

投資をやめてもいい売却タイミングは?

投資をやめてもいい売却タイミングはいつかというと、「10年以上先のライフイベントが訪れたとき」です。売却タイミングは値動きで決めるものではなく、実際にお金を使うタイミングで決めるのが重要です。

たとえば、子どもの大学資金や自分たちの老後資金などは、必要となる時期までに時間の余裕があります。また、10年以上先に車の買い替え、リフォーム、学び直しといった予定がある場合も、そのお金を使うのに時間の余裕があります。

NISAはこのような、使うまでに時間の余裕があるお金を貯めるのに適しています。

NISAで投資する株や投資信託には値動きがあり、元本割れのリスクがあります。日々の生活のために必要なお金や、数年以内に訪れるライフイベントに必要なお金をNISAで貯めようとして、元本割れしてしまったら困ってしまいますよね。

しかし、使うまでに10年以上時間の余裕があるお金ならば、NISAを活用した「長期・積立・分散」投資をすることで堅実に増やせる可能性があります。

元本割れせずに資産を取り崩すには、15年、20年と長期間にわたって運用を続けることが大切です。

投資の名著とされる『ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版>』(バートン・マルキール著)では、1950年以降、広く分散された株価指数の一例として「S&P500」に15年以上長期投資することで元本割れしないという分析結果を紹介しています。

また、金融庁の「つみたてNISA早わかりガイドブック」および「NISA早わかりガイドブック」では、1985年以降の期間で積立・分散投資を「5年」行った場合と、「20年」行った場合の分析がされています。この分析結果によれば、積立・分散投資を「20年」続けた場合、投資収益率は年2%~8%の間に収まっていて、元本割れを起こしていないことがわかります。

もちろん、これらはあくまで過去のデータです。「今後絶対に元本割れしない」ことを保証するものではありません。しかし、15年、20年と運用を続ければ、元本割れのリスクを抑え、お金を堅実に増やせる可能性が高い、ということはできるでしょう。

そもそも、資産を一番高い価格で売却するのは難しいものです。

資産を売却するときは、購入時と同様に、複数回に分けるのも一つの手。平均売却単価を安定させることができます。

資産の売却は使う分だけ取り崩し、残りは引き続き運用を続ければ、再びお金を増やすことも可能です。新NISAでは、売却した資産の非課税投資枠が翌年に復活するので、再び非課税での運用を続けることができます。可能な限り長く運用を続けるのがおすすめです。

NISA売却の優先順位

NISAの資産を売却するときには、優先順位をつけるのがおすすめです。

●「旧NISA」と「新NISA」ならば「旧NISA」を優先

旧NISAには、非課税保有期間が5年の一般NISAや、非課税保有期間が20年のつみたてNISAがありました。一般NISAやつみたてNISAでは、2024年以降新規の投資はできなくなっています。しかし、一般NISAやつみたてNISAの非課税保有期間(5年・20年)が終了するまでは、一般NISAやつみたてNISAの資産を旧NISA口座で引き続き非課税で保有できます。そして非課税保有期間が終わると、旧NISA口座にある資産は課税口座(特定口座または一般口座)に自動で移されます。これを「移管」といいます。

旧NISAの資産が課税口座に移管されても、旧NISA内の運用で得た利益には課税されません。しかし、移管された後の資産額から増えた利益には税金がかかります。

新NISAの投資で得られた利益は「5年」「20年」といった非課税保有期間がなく、一生涯にわたって非課税です。そのうえ、新NISAでは売却しても翌年に非課税投資枠が復活します。

新NISAから売却したほうがよいと思われる方もいるかもしれませんが、旧NISAで非課税保有期間を超えて持ち続けていると、資産が課税口座に移されてしまいます。したがって、旧NISAと新NISAの資産が両方ともあるという方は、非課税保有期間が決まっている旧NISAから優先して売却するのがよいでしょう。

●「つみたて投資枠」と「成長投資枠」ならば「成長投資枠」を優先

新NISAのつみたて投資枠の年間投資上限は120万円、投資方法は積立投資に限られています。毎月の投資金額の上限は10万円です。成長投資枠の年間投資上限は240万円、積立投資だけでなく一括投資もできます。240万円を一気に投資することも可能です。

つみたて投資枠と成長投資枠を併用している場合は、成長投資枠の資産の利益部分から取り崩すのがおすすめです。売却後も再び投資を続けるときに、成長投資枠だとすぐに一括で再投資が可能。売却後も資産運用を続けることを考えるのであれば、つみたて投資枠の資産には手をつけず、成長投資枠の資産から優先的に活用するようにしましょう。

お金は使うために貯めるのですから、投資した資産を売却して目的達成のために使うことには何の問題もありません。しかし、いつ売却してもいいかといえば、そうではありません。短期的な値動きに惑わされず、長期的な目線で投資に取り組み、お金を増やし、使っていきましょう。

頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)

X(旧Twitter)→ @yorifujitaiki

関連記事

【不動産投資について】インヴァランス